捜査

第111話

「他殺の可能性?自殺じゃないのか、田沼(たぬま)」


 椿が怪訝そうな顔を浮かべながら、低い声を出した。


 彼は国立大学の広い研究室にある丸椅子に腰をかけていた。その視線の先にはくしゃくしゃによれた白衣を羽織った壮年の男がいる。


 田沼と呼ばれたその男はちりちりに縮れた髪の毛をかきむしってから、かっかっかと笑った。


「分からないか?ま、あんたら委員会はそうでも仕方ないか」

「何だと」

「あんたらはしょっちゅう人の死に様を見てはいるが、その前後はどうでもいいだろう」

「だから何だ、それが私達の仕事だ」

「その姿勢が見落とす要因なのさ」


 田沼は机の上に置いてあった数枚のカルテを手に取り、目を忙しなく動かした。カルテには風見桐子の名が記されてあった。


「大体、遺体の発見場所自体、おかしいと思わなかったのか?」


 田沼が言った。心底、呆れ返ったような口調だった。


「あの港は、風見桐子の息子がリ・アクトの施行を受けた場所だったんじゃないか?」

「記録ではそうなってるな。私が担当した訳じゃないから、その場にはいなかったが」

「自分の息子がリ・アクトされた場所で自殺、ねぇ…」


 嫌味たっぷりに言い放つ田沼に、椿は眉を寄せて睨み返した。

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