捜査
第111話
「他殺の可能性?自殺じゃないのか、田沼(たぬま)」
椿が怪訝そうな顔を浮かべながら、低い声を出した。
彼は国立大学の広い研究室にある丸椅子に腰をかけていた。その視線の先にはくしゃくしゃによれた白衣を羽織った壮年の男がいる。
田沼と呼ばれたその男はちりちりに縮れた髪の毛をかきむしってから、かっかっかと笑った。
「分からないか?ま、あんたら委員会はそうでも仕方ないか」
「何だと」
「あんたらはしょっちゅう人の死に様を見てはいるが、その前後はどうでもいいだろう」
「だから何だ、それが私達の仕事だ」
「その姿勢が見落とす要因なのさ」
田沼は机の上に置いてあった数枚のカルテを手に取り、目を忙しなく動かした。カルテには風見桐子の名が記されてあった。
「大体、遺体の発見場所自体、おかしいと思わなかったのか?」
田沼が言った。心底、呆れ返ったような口調だった。
「あの港は、風見桐子の息子がリ・アクトの施行を受けた場所だったんじゃないか?」
「記録ではそうなってるな。私が担当した訳じゃないから、その場にはいなかったが」
「自分の息子がリ・アクトされた場所で自殺、ねぇ…」
嫌味たっぷりに言い放つ田沼に、椿は眉を寄せて睨み返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます