第109話



 翌朝。午前九時から轟木刑事は苛立ち、くわえていたタバコのフィルターを犬歯でギリギリと噛み潰していた。


 二日ほど前だっただろうか。椿から、今日の午前八時に警視庁で有山瞳の尋問を始める、必ず同席しろという旨の連絡が入った。


 あの小憎らしい若造にこれ以上でかい顔をされるのが我慢できず、轟木は七時に出勤してきた。


 話を聞くだけだ、拷問まがいの真似は決してしない。だから、安心したまえ。


 電話ではあんな事を言っていたが、分かるもんか。少しでも瞳ちゃんを動揺させてみろ、ただじゃおかねえ…!


 そこまで意気込んで待っていたのに、八時を過ぎても椿は現れなかった。


 そして一時間遅れの午前九時になって、椿の部下だと名乗る三十代くらいの女が有山瞳を連れてやってきた。


 女は、黒いワンピースに、同じく黒のレースが前にかかった大きな鐔帽子(つばぼうし)を身に付けていた。


 『委員会』の奴らはとことん喪服にこだわりやがる、と轟木は呆れた。そんな彼に、女は有山瞳を差し出すようにしながら言った。

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