第107話
「弟の名は、須藤大和といいます」
「え…、あっ」
高明はしまったとばかりに、自分の口を片手の手のひらで覆った。罰が悪そうに須藤を見つめてくる。やがて静かに「すまない」と謝ってきた。
「無神経な発言だった、勘弁してくれ」
「いえ、僕は大丈夫です。それより高明様、お怪我は…」
「紗耶香の言った通りだな」
高明は姿勢よく歩み寄り、須藤の目の前に立った。須藤は自分より数センチほど高い彼の顔を軽く見上げる形になった。
高明が言った。
「紗耶香がいつも言ってるんだ。大和さんは優しくて頼りがいのある、素敵な殿方だと」
「そんな馬鹿な。紗耶香ちゃ…、いえ、紗耶香様は僕を過大評価しすぎです」
「いいや、さっきの事で俺もそう思った。怪我をしているんだろう?それでも、紗耶香を守ってくれた」
高明が片手を差し出してきた。何の意味だか分からず須藤がぼんやりとそれを見つめていると、高明はにこりと微笑んだ。
「君に会う機会がないまま、いつも紗耶香から話を聞くだけだった。やっと会う事ができて嬉しいよ」
「そんな、僕なんかに…。光栄なんだか恐縮なんだか」
「椿君にも言ったが、俺に敬語は使うな。同い年なんだし、何より友達じゃないか」
「…は?」
友達という言葉に一瞬戸惑い、須藤は間抜けな声を出してしまった。そんな彼の手を、高明はしっかりと掴んで握手を始めた。
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