第106話
「そんな事を言うのは、母さんの墓前に一度でも立ってからにしてほしいよっ…」
「無茶を言うな、大和。お父さんの立場も考えて…」
「だったら、なぜ母さんを…!」
「優梨子(ゆりこ)さんがそう望んだからだ。知ってるだろ」
「くっ…」
須藤は唇を噛み締め、俯いた。右手で頭をガリガリとかきむしる。弟の苛立つ姿に、椿は胸が痛んだ。
そこへ、一人の男が近付いてきた。遠慮がちに「今、大丈夫か?」と声をかける。
その声にはっと驚き、椿は振り向き様に姿勢を整え、一礼した。
「はい、高明様」
「えっ…」
「大和、本郷高明様だ」
須藤は下を向いていた顔を持ち上げ、男を見た。
彼は、確かに壇上にいた男で、自分と一緒に風見桐子を取り押さえた。初めて会う顔でも分かった。紗耶香をその背中に隠して守った、兄の本郷高明だった。
須藤は慌てて椿に続き、深々と頭を下げた。高明はそんな須藤を見て、言った。
「さっきは妹を…紗耶香を助けてくれてありがとう」
「いえ、初めまして。僕は…」
「知ってる。椿 大和君、だよね」
「…っ…」
慣れない名で呼ばれ、須藤の眉がピクリと寄せられる。いち早くそれに気付き、椿が「違います、高明様」と口を挟んだ。
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