第102話

とてつもなく大きい本郷家の入り口で執事に迎えられ、通された応接間で初めて本郷宗一郎と紗耶香に出会った。


 この日、高明はいなかった。通っている名門高校の定期テストに出かけて不在だと宗一郎は言った。


 本郷家には同い年の嫡男・高明様がいらっしゃる、くれぐれも粗相がないように――。


 椿にそう言われていたので、不在と知って強張っていた身体が急に楽になった。


 ほうっと息を吐き、勧められた大きめのソファに三人で座る。椿と「あの人」が宗一郎と小難しい話をし始めた途端、小さな手が須藤の膝にぽんと置かれた。


「こんにちは…」


 はにかみながらそう挨拶してきた九歳の紗耶香は、目が見えない事を除けば、本当にどこにでもいるような女の子だった。


 それゆえに、須藤の脳裏にあの日の事が鮮明に蘇った。あの日、僕はあいつを…。


「…さん、大和さん?」


 何度か名前を呼ばれて、須藤ははっと我に返った。


 いつの間にか高級車は一台もいなくなっていて、振り返った紗耶香が何の反応も返さない須藤の腕を心配そうに揺さぶっていた。

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