第100話
女は涙で真っ赤に腫れた顔で紗耶香を睨んだ。目の見えない紗耶香には、女のその表情が分からない。
だが、紗耶香の口許は優しく微笑んでいた。そして「大丈夫ですか?」と話しかけた。
「もう何も怖い事はありません。怪我はありませんか?」
「あ、あんた…」
「良かった、あなたが無事で…」
心底安心したように胸を撫で下ろす紗耶香に、女はブルブルと身体を震わせ、こぶしをギュッと握りしめる。
女はもう何も言わなかった。口を真一文字に閉め、ひどく口惜しそうに踵を返し、大ホールの入り口の向こうへと走り去っていった。
多少のざわめきが残るものの、誰も女の後を追おうとはしなかった。椿も悔しそうにしていたが、やがてあきらめて顔を逸らした。
皆のそんな様子を見て、須藤はほっとしていた。
警視庁国家危機対策安全課に属する刑事として、この気持ちはおかしいものであるだろう。
だが、女の泣きわめく姿を見ていたら、どうにも抑えられないものがあった。それを紗耶香が代わってくれた。
情けないが、この場は彼女でなければ収まらなかっただろう。
そう思っていた須藤の前に、当の本人がいつのまにか立っていた。
困惑して息を飲む須藤に、紗耶香が明るい声で言った。
「大和さんでしょ?すぐ分かりました」
微笑む紗耶香の肩越しに、高明の姿も見えた。高明もじっと須藤の顔を見つめていた。
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