第99話

「待ちなさい!私のお友達をどこに連れていくのですか!?」


 大ホールにいる全ての人間が、壇上の中央に目を向けた。


 それまでずっと成り行きを聞いていた紗耶香が椅子から立ち上がり、ゆっくりと椿達の方に歩み寄ってきた。まぶたを閉じたままだが、その顔には強い意思が宿っている。


「その方から離れなさい」


 紗耶香が大きな声で言う。側にいた高明が「危ない、紗耶香」とその小さな肩を掴むが、彼女の言葉は止まらなかった。


「今のは私と彼女の悪ふざけです。パーティーを盛り上げようと思って…ごめんなさい」

「紗耶香様!?一体、何をおっしゃって…」

「その声は椿さんですね?過去の経歴がどうあれ、その方は今は私のお友達です。拘束は認めません、その方から離れなさい」

「しかし…」

「この場の主役である私が言っているのですよ?」


 その通りであった。パーティーの主役の紗耶香がそう言っている以上、今の騒ぎは単なる戯れ。紗耶香と女の悪ふざけであったと、無理矢理でも納得せざるを得ない。


 椿は唇を一度引き結んだ。そして片手を挙げ、小さな声で「離してやれ」と言う。根岸とSP達はすぐに女から手を離し、舞台袖に去っていった。

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