第98話

わあわあと大声で泣きわめく女を、椿を始め、大ホールにいる大半の人間が冷ややかな目で見つめていた。


「…何だ、元加害者か」


 誰かの声が痛みをやり過ごそうとしている須藤の耳に届いた。


「一度許された身でありながら、紗耶香様のお命を狙うとは…。厚かましいにも程がある」

「全くだわ。ああ、嫌だ。元加害者と同じ空気を吸ってると思うと気分が悪いわ」

「よく見ておきなさい、あれが最低な人間の姿だ。大人になったら情けなど一切かけず、処罰してやるんだ」


 中には幼い子供に泣き続ける女の姿を見せ、厳しい口調で説く父親までいる。


 その父親に天真爛漫な笑顔で「うん、分かった~」と明るく返事をする可愛い女の子の声…。須藤の中で急激に強い感情が湧き起こった。


 そこへ、遅れて根岸がやってきた。椿は根岸を睨み付け、「遅い」と短く言った。


「この女を委員会本部まで連れていけ。国家反逆罪だ」

「は…、はっ!」


 椿の言葉に敬礼で返し、根岸は他のSPと一緒に女を乱暴に立たせた。


 それを見て、須藤は痛みを堪えながら一気に立ち上がった。


 脇腹から手を離せないのは情けないが、今ある感情の赴くままに言葉を発しようと息を吸い込んだ。その時だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る