第95話

男――高明は、静かに紗耶香を椅子に座らせ、自分はその傍らに立った。


 麗しい兄妹の姿に招待客の誰もが溜め息を漏らす中、進行役が言った。


「ここで紗耶香様に花束のプレゼントがございます。皆様、盛大な拍手を!」


 見ると、大ホールの入り口から大きな花束を持った女がやってきた。静かな微笑みを浮かべ、しずしずといった歩調で壇上に近付いていく。


 盛大な拍手が起こった。割れんばかりの大きな音の中、女は壇上への短い階段を昇り、紗耶香の前に立った。須藤もさらに壇上に近付き、見守る。


「どうぞ」


 女は一言そう言って、花束を差し出す。花のかぐわしい匂いに誘われるように、紗耶香も両手を伸ばしてきた。


「ありがとうございます」

「いえ…」


 全ての人間が見守る中、紗耶香が花束を受け取る。女がそれを確認し、両手を引いたその時だった。


「息子の仇!本郷紗耶香、覚悟!」


 女の手には小型拳銃デリンジャーが握られていた。全く無防備だった紗耶香の眉間に銃口が向けられる。


「死になさい!」


 女の指が引き金にかかる。紗耶香は驚きのあまり息を飲んだ。

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