第94話

淡いピンクのワンピースドレスがスポットライトの光に照らされた途端、須藤の足は少しずつ壇上に近付いていった。


 高級スーツの背の高い男にエスコートされながら、紗耶香はゆっくりと壇上の真ん中にある椅子に向かって歩く。手に持った白い杖の使いにくそうな具合から、彼女の背が伸びたのだと須藤は思った。


 須藤が紗耶香の姿を見るのは、一年半ぶりだった。最後に会ったのは、自分が警視庁に入った事を知らせに行った春の日だった。


 きれいになったな、と須藤は紗耶香の姿に見惚れた。


 背中まで伸ばした髪は軽いパーマがかかっていて、生まれつき茶色がかったそれをより柔らかい印象に見せている。


 閉じたままのまぶたの先のまつ毛は長く、鼻も小さい。薄い唇に乗せられたピンクのグロスがキラキラと光っていた。


 須藤はまた数歩壇上に近付く。そこで紗耶香と一緒に歩いていた男と目が合った。


 あれが兄の高明様だろうか…。


 優雅な身のこなしで紗耶香を連れ立って歩く男を見ていると、彼がニコッと笑って会釈した。須藤も慌てて返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る