第93話

壇上の端では、進行役らしきタキシード姿の男が若手政治家の背中を見送っていた。


 少々ひきつった顔をしており、手持ちのハンカチで汗を拭いながらキョロキョロと辺りを見回している。


「紗耶香様、どうされたのかしら?」

「お疲れなんだろ。元々お身体が弱いし、こういう派手な祝いも好まれない方だからな」


 須藤の横に立っていた、やたら派手な化粧をしたイブニングドレスの女が呟き、それにすぐ側でシャンパングラスを傾けていた男が答える。二つの香水の混じった匂いがたまらず、須藤が少し距離を取った時だった。


 進行役の男が舞台袖の方をまっすぐ見つめ、心底ほっとした顔をしていた。急いでマイクを手に取り、「あー、あー…」と声の調子を整える。


 そして一呼吸置くと、喜びいっぱいと言わんばかりの大きな声で言葉を発した。


「皆様、お待たせ致しました。ここでまた、このパーティーの主役たるお方にお出まし願いましょう。本日めでたく十七歳になられました本郷紗耶香(ほんごうさやか)様です!」


 大ホールの明かりが一斉に落とされ、真っ暗になった。短いどよめきの後、スポットライトの光が一つ、壇上を明るく照らす。その光に向かって、二つの人影が舞台袖からゆっくり出てきた。

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