襲撃

第91話

須藤が大ホールに入ると、パーティーはすでに終盤を迎え、壇上に立つ誰かの挨拶を皆が静かに聞いているところだった。


 誰だったかいまいち思い出せなかったが、椿と同年代くらいの男だ。


 やたらと「日本大国の未来を」とかなんとか繰り返している。恐らく次の選挙で国会への進出を考えている若手政治家といった辺りだろう。


 何もこんな所で演説しなくても、と須藤は小さく息をつく。壇上に向けていた目を離し、周囲を見回してみれば、ホールの隅に佇む椿を見つけた。


 椿も壇上を見つめていたが、やや不機嫌そうな表情で腕組みをしている。


 自分が遅れたせいもあるだろうが、このような場でいつまでもそんな顔を見せているのは珍しいと、須藤は不思議に思った。


 須藤はやや早足で椿に近付き、声をかけた。


「ごめん、遅れた」

「…ああ」


 椿は須藤の声に反射的に振り返り、不機嫌さで硬直していた表情が緩んだ。


 組んでいた両腕も外し、須藤の脇腹に右手を添えるように近付けた。

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