第90話

『言いたくもない事を無理矢理言わせて、辛い思いをさせた…』

「ユウヤ君…」

『同期で親友だったんだろ。もう、無理に吉川さんを悪く言わなくていいから』

「……」

『少し休んだらあがってくれ、それじゃあ』


 男鹿が何も言い返す間もなく、電話は切られた。ツー、ツーと繰り返される不通音が男鹿の耳に響く。


「…ふっ、う…」


 男鹿の手から携帯電話が滑り落ちた。ガチャンという音を立ててベッドの下に転がる携帯電話の横に、ぱたぱたと滴が落ちた。


「よ、吉川っ…うぅ~…おぉぅ…」


 我慢できず、男鹿――いや、オガは顔を両手で覆っていたが、その指の隙間から涙がこぼれ落ちていく。


 オガは己の信念を曲げず、大義の為にその命をかけ、散らしていった親友を思いながら、長い時間泣き続けていた…。

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