第88話

「全く、とんだ恥さらしがいたもんだ!」


 男鹿が叫んだ。


「国家認定国際検事は、我が日本大国の代表たる存在!それがテロリストに荷担するとは、何と情けない!」

「あ、ああ…吉川とかいってましたね」

「あんな輩は処刑されて当然!日本大国バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」


 大きく両腕を振り上げ、騒ぎまくる男鹿。今にも倒れそうなその身体を須藤は何とか支え続けようとするが、アバラの痛みがズキンと響く。そこへ根岸が慌てて駆け付けた。


「男鹿様!どうされましたか!?」

「すみません、男鹿検事をどこかで休ませていただけますか?」


 須藤は流すように男鹿の身体を根岸に預ける。根岸は男鹿の酩酊(めいてい)している姿に動揺したのか、ろくに須藤の顔も見ずに「分かりました」と男鹿を廊下の奥へと連れていった。


 須藤がほうっと息を吐いた時、彼の携帯電話がメール着信を知らせる音を鳴らした。


 メールボックスを開いてみれば、それはやはり椿からで「まだか?」という短文が浮かんでいた。


 課長に引き続き、今度は身内に怒鳴られるのか。ちょうど厄介者がいなくなった受付所を通りすぎながら、須藤はそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る