第86話
時間に遅れただけでも充分厄介なのに、大ホールの手前にある受付所には、また厄介な人物が仁王立ちしていた。
ガッチリした体格には窮屈そうな背広を着た根岸衛兵長が、ギョロギョロと忙しなく目玉を動かし、辺りを警戒している。
大方、例の事件の失敗を責められての罰か、名誉挽回の為にあえて名乗り出たかのどちらかだろう。
どちらにせよ、身体一つで来ればいいとの椿の言葉を信じて来た須藤には迷惑な事だった。
根岸はトイレから戻ってきた客にも「招待状のご確認をよろしいでしょうか?」と、いちいち催促している。
確かに、現役を退いているとはいえ、今なお政界に顔がきく元内閣総理大臣・本郷宗一郎の孫娘の誕生パーティーだ。SPとして絶え間ない緊張がその全身を覆っているのだろう。
椿に連絡を入れてみたが、サイレントモードにしているのか繋がらない。
根岸に椿との関係を話した上で、呼び出してもらおうかと考えたが、すぐに打ち消した。
そんな事をすれば、また「あの人」にうるさく言われるだろうし、最悪の場合、警察を辞めさせられるかもしれない。
どうしたものかと前に進めない両足を持て余していると、そんな須藤の背中にぶつかってきた者がいた。
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