第82話
大ホールを出た高明は、背筋をしゃんと伸ばして廊下を歩いた。
柔らかい真っ赤な絨毯を足音一つ立てず、上品に進んでいく。高明のそんな様を、鉢合わせたホテル客や従業員の誰もが道を譲り、惚れ惚れとした表情で見つめた。
高明は突き当たった廊下の角を右に折れた。そしてまた少し進むと、一番左端の部屋に続く西洋風のドアが見える。
高明はそのドアの前で歩を止めた。こほんと小さく咳払いをする。右手を持ち上げて、二度三度とドアをノックした。
「紗耶香、俺だ。入るぞ」
ノックに返事は返ってこなかった。高明は「全く…」と呟くと、そっとドアを押し開けた。
控え室専用に使われているその部屋は、客室より狭い造りではあったが、それでも十二畳分の広さはあり、ティーテーブルやクローゼットが備え付けられた立派なものだった。
高明はその部屋に一つしかない大きな窓に目を向けた。
窓辺には一人の少女が寄りかかるようにして椅子に座っていた。
淡いピンクのワンピースドレスに身を包んだ少女は、一台の古く小さなラジオを抱き締めるように持ち、閉じた両のまぶたから静かに涙をこぼしていた。
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