第81話

「俺の方が年下なんだから、その『高明様』と敬語はやめてくれないか?確か、君の弟と同い年だ」

「いえ、とんでもない。高明様は日本大国の未来を担っていくお方です。私ごとき一役人がこうしてお声かけていただくだけでも…」

「椿君、言葉が長いよ」


 椿はそっと頭を持ち上げた。誰に対しても柔らかな態度で接し、微笑みを崩さない高明を、彼は心から尊敬していた。


 「恐縮です」と返す椿に、高明は右の頬を指で掻く。そして、ふと気付いたように言った。


「大和君は?まだ来てないのか?」

「申し訳ございません」


 椿がまた頭を下げる。


「仕事で遅れると連絡がありまして」

「なるほど、それで紗耶香がご機嫌斜めなのか」

「女性を待たすなど、本当にとんでもない愚弟でして」

「気にしなくていいよ。テロリストを一掃する大事な職なんだ。紗耶香は俺が宥めておくから」


 それじゃあ、と片手を挙げ、高明は大ホールの出入り口に向かって歩きだす。椿はその背中をまっすぐに見送った。

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