第62話



 ユウヤがくぐったドアの先は、八畳ほどの狭い部屋だった。


 コンクリートで剥き出しの壁やぼんやり光る天井の電球は変わらず、後は粗末なクローゼットとパイプベッドしかない。


 ユウヤは黒のコートを脱ぎ捨て、パイプベッドに腰かけた。ベッドはユウヤの体重の分だけ軋み、ギイギイと微かな音を立てた。


 撃たれてかすった頬がツキンと痛んだ。ガーゼをむしり取り、そっと指を添える。血は止まっているようだ。鏡がなくても、生々しい感触がはっきり分かった。


『ユウヤ、僕が分からないのか!?僕は大和だ、須藤大和だ!』


 この傷を付けた男の声が、脳裏に蘇る。


『ユウヤ、お前は…鳴神裕也じゃ…』


 何故、撃ったのか?先ほどのオガの問いに、ユウヤは今でも答えられる気がしなかった。疼くように痛む胸元を押さえ、一人呟く。


「何で…お前が…」


 ユウヤのグラサンの亀裂がいっそう走り、ついに形状が保てなくなって砕けた。


 バラバラになったグラサンがスローモーションのように床に落ちていくのを、そこに現れたやや丸みを帯びた目が無機質に追っていた…。

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