第57話

オガが十歩も進まないうちに見えてきたのは、あまりにも殺風景な空間だった。


 空調を司る小さな換気扇がカラカラと回るその壁は四方がコンクリート剥き出しで、壁紙の代わりにいくつかのドアと、何十もの拳銃やショットガンが掛けられている。


 床も大して質の良くないタイル張りで、歩く度に地下という事も相まって足音がコツコツと鳴った。


 さほど大きくない電球の光の下、空間の中央には古くてボロボロだが、五人は余裕で座れる革貼りのソファーがある。そのソファーに、ユウヤとナオトが座っていた。


「ユウヤさん、ごめんなさい…本当にごめんなさい!」

「……」


 オガがソファーに近付くと、ナオトが深々と頭を下げて何度も何度もユウヤに謝っているところだった。


 ナオトはオガが自分達の後ろにやってきた事など気付きもせず、ひたすら頭を下げ続ける。だが、ユウヤは全くの無反応だった。


 ヒビの入ったグラサンをかけたまま、無言で正面にある電源の入っていないテレビの液晶画面を見つめ続けているユウヤに、オガは話しかけてみた。


「お疲れ様です、ユウヤ君。顔に怪我をしたそうですね」

「…っ…」

「詳細はリュウジ君から聞きましたよ?」


 オガはゆっくりとユウヤの隣に座った。


 ユウヤはグラサンの向こうからちらりとオガを見たが、すぐにバツが悪そうに再び映っていないテレビに視線を戻した。その右頬には大きなガーゼがテープで留められていた。

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