第56話

男鹿は長い廊下を先ほどよりも早足で駆けた。


 幅の狭い廊下を抜け、角を二回曲がる。そして開けた行き止まりにある塗装の剥げたドアをトトトトンと素早くノックした。


 ほんの少しの間があって、ドアの向こう側からトントン、トンとノックが返ってくる。それに対して、男鹿が再びトトトトンとノックすると、今度は声が聞こえてきた。


「よう、オガのおっさん。お疲れさん」


 ガチャガチャと施錠を外す音が響き、鈍い音を立てながらドアが開かれていく。能天気な笑みを浮かべるリュウジの顔が男鹿――いや、オガを出迎えた。


 オガはわざとらしく大きな溜め息を吐き出し、リュウジの横をすり抜けながら言った。


「お疲れ様だと言いたいのですが、リュウジ君。廊下の蛍光灯を取り替えて下さいと前にお願いしたでしょう?まだできてませんが?」

「また今度な。今度買ってくる」

「君の“今度”はあまり信用できないのですが…前も武器の手入れ当番をサボりましたしね」

「少なくとも、今日は無理だな。ま、先にあんたがあいつら何とかしろや」


 リュウジがそう言うと、オガの足がぴたりと止まった。


 肩越しに振り返ると、リュウジはお手上げと言わんばかりに肩を竦めている。


「ユウヤ君…!」


 オガは再びまっすぐ歩を進めた。

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