第55話
キャンピングカーがビル街に入った。その中を進むにつれ、男鹿の表情から少しずつだが穏やかさが消えていく。
彼の顔に厳しいものだけが現れ出した頃、キャンピングカーはビル街の中でもとりわけ低くて目立たない、古ビルの駐車スペースに停まった。
キャンピングカーから素早く降り、男鹿はかなりの早足でビルの入り口ドアをくぐる。
そのビルに一基しかないエレベーターの前に立つと、一度辺りを窺うようにキョロキョロと見渡した。よし、誰もいないようだ。
男鹿はエレベーターのボタンを押し、扉が開かれたと同時に素早く滑り込み、B3Fのボタンを押した。
扉が閉ざされたエレベーターが地下に向かってゆっくり進んでいく。自分の身体が徐々に引っ張られていくような独特の感覚に、男鹿は思わず目を閉じる。
やがて、チンという小気味良い音と共にエレベーターがその扉を開いた。
男鹿がゆっくりと目を開く。薄暗い廊下がこもった空気をまとって長く続いていた。
このビルの上階のフロアに陣取っている借り主達には、地下フロアはビル主がまだ誰にも貸していない空の倉庫という事で通している。
ゆえに、B3Fの天井にわずかに付けられた蛍光灯が今も切れそうに点滅を繰り返しても、誰も気付かない。「彼ら」を除いては。
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