第50話

ほどなく、通達を聞いて『委員会』から一人の男が校庭に向かっていた。


 リムジンの長い後部座席で腕組みをし、瞑想するようにまぶたを閉じている。オールバックの髪型に厳しい表情を保った三十代の男だ。その胸に、赤い菱形のバッジが鈍く輝いていた。


 リムジンが高校の校門前に着いた時、彼は素早くドアを開けて立ち上がる。若干乱れた喪服スーツの裾を軽く引っ張ってから、革靴をカツカツと踏み鳴らし大きな歩調で歩く。


 そして、実際にその光景を目にした瞬間、頭を軽く振った。


 校庭の至る所に銃弾が撃ち込まれた痕があり、警備に当たっていた選りすぐりの兵士達が倒れ、呻き声をあげている。


 空を見上げてみる。飯塚と瞳を乗せたツインヒューイは、もう見えなくなっていた。


 数人の無傷の兵士が男に近寄ってきた。俯きがちに「も、申し訳…」と声を震わせている。


 男はそんな彼らを一瞥してから、ふうと息を吐いた。


「どこでどう漏れたのか…これは我々『委員会』の失態だ。君達のせいではない」

「つ、椿(つばき)様…」

「急いで怪我人の手当てを。これが本当にレッド・ティアーズの仕業なら、致命傷は与えていないはずだ」


 椿と呼ばれた男はそう言って、倒れている一人に近付き、その側に落ちていた塊をポケットから取り出したハンカチで包むように拾い上げた。

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