第48話

貨物船のタラップには、二、三人の黒人が立っていて、「ヒトシ~、カモン♪」とにこやかに手を振っている。


 若干の戸惑いを感じているのか、なかなか一歩を踏み出せない飯塚にオガはさらに優しく言った。


「大丈夫です。彼らには、あなたのB国での生活をしっかりお願いしてありますから」

「最後に頼みがあるんだ、オガさん…」

「はい、何ですか?」

「あの子に伝えてくれるか?本当にごめんって…。一生許してもらえないだろうけど、まともな人間になって戻ってくるからって…」


 飯塚が振り返った。涙と鼻水でぼろぼろの顔で。まるで子供のように、何度も何度もしゃくりあげた。


 そんな飯塚を、オガは満面の笑みで「はい」と答えた。




 飯塚達を乗せた貨物船が港を離れ、ゆっくりと沖合いに流れ去っていくのをオガはじっと見つめていた。


 しんと静まり返った港にはオガ一人だけ。その彼の背広の内ポケットから軽快な着信音が響いた。


 オガは慌てる様子もなく、そっと携帯電話を取る。年の割りには最新の機種であった。


「…もしもし。ああ、リュウジ君ですか。こちらは無事に見送りましたよ。そちらはどうでしたか?…え?ユウヤ君が?」


 オガのそれまでの穏やかな表情が一変した。

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