第47話

――同時刻。ある港で二人の男が向かい合って立っていた。


 一人は糊がぱりっと効いた背広を着こなす五十代の男だった。小柄で少々白髪とシワが目立っているが、上品な笑みとまっすぐな背筋が彼の存在を際立たせている。


 もう一人の男は、オイルで汚れた作業服を身に付けていた。その背中の向こうには、大きな貨物船がある。甲板にはB国の国旗が潮風にはためいていた。


「…あんた、オガっていったよな。ありがとう、世話になった」


 作業服の男が軽く一礼すると、背広の男――オガは「いえいえ」と首を横に振った。


「飯塚さん。あなたが本当に悔やんだからこそ、我々は動いたまでです」

「うん…」

「ですが、決してお忘れなきよう。あなたが犯罪者であるという事実、被害者があなたを憎んでいる現実。そして…我々がこの国を正した暁には、あなたは再び裁かれるという事を…」

「うん、うん…」


 飯塚は唸るように答えながら、ボロボロと涙をこぼした。


 オガは、もう何十人もの人間が同じ反応をするのを見てきたが、その度に確信していた。彼らは心の底から悔いている、と。


 そんな彼の肩に優しく手をかけ、「もう行きなさい」と促した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る