第44話

「ユウヤさん、ユウヤさん大丈夫!?」


 ナオトはがくっと片膝をついたユウヤに懸命に声をかけ続けていた。


 須藤の拳銃が放った銃弾は、ユウヤの右頬を掠り、その傷から血が何本もの線を作ってアスファルトに滴り落ちた。衝撃が伝わったのか、グラサンにもヒビが入っている。


 膝をついたまま動かないユウヤに焦れたのか、須藤がまた叫んだ。


「立て、ユウヤ!大した傷じゃないはずだ!ゆっくりこちらを向いて投降しろ!」


 須藤は拳銃を構えたまま、大股でツインヒューイに近付いていく。「バカ!行くな須藤!」という轟木の声など聞こえていないようだった。


 突然撃ってきた須藤に、リュウジの怒りは一気に沸点に達した。素早く機関銃の銃口を彼に向け、引き金に指をかける。


「あのサツ野郎!蜂の巣にしてや…」

「やめろ、リュウジ!」


 その怒鳴り声に、思わずリュウジの身体が固くなった。


 見ると、ユウヤがこちらを睨み付けていた。


 いつも冷静沈着なこの男が怒鳴るのも珍しいが、そのグラサンの奥にある瞳に、とてつもない激情が宿っている。ナオトもそれを見て言葉を失っていた。

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