第39話

「刑事さん」


 ユウヤが右手に持っていた拳銃を静かに轟木に向けた。


「俺達は戦争や人殺しがしたい訳じゃない。同志を返してくれれば、あの少女にはもう何もしない」

「信用しろと言うのか、テロリストを」

「俺達がただのテロリストなら、とっくに彼女もあんた達も殺している。彼女は必ず返す、約束しよう」

「…ううむ…」


 轟木は短く唸った。


 ユウヤの言う事は一理あった。


 彼らがその気になれば、ツインヒューイの機関銃で簡単にこの場を制圧できた。何十人もの犠牲が出たはずだ。人質も必要なかっただろう。


 だが、実際は報道ヘリと群衆を威嚇射撃のみで追い払い、根岸達の戦意を喪失させただけ…。


 本当にただ、仲間を取り戻しにきたのだとすれば…。奴らにとって、この交渉が「最後の手段」だったのならば…。


「いいだろう…」


 意を決して、轟木は拳銃を完全に下ろした。ふうと息をついて、ユウヤも拳銃を腰元に差す。


「瞳ちゃんをヘリから降ろせ。こっちもお前の仲間を、あの悪趣味な十字架から下ろしてやる」

「感謝するよ、刑事さん」

「…轟木だ…」


 轟木はくるりと背中を向け、トレーラーの荷台によじ登ると十字架の少年を戒める縄をほどきだした。

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