第38話

「有山瞳(ありやまひとみ)、十七歳。二ヶ月前、母親と外出中に通り魔に遭遇。目の前で母親をメッタ刺しにされた挙げ句、レイプされた…」

「貴様、何であの子を…」

「知らないのか?リ・アクトCase.41の裁人はあの子だ」


 ユウヤのその言葉に、轟木は冷水を浴びせかけられたような衝撃を受けた。


 確かにユウヤの言う通りだった。二ヶ月ほど前、あの少女は何も悪い事をしていないのに、たった一人の家族である母を突然奪われた。


 あまり気分はよくなかったが、事情聴取の為に轟木は少女と二、三度会った事がある。だが、あまりのショックに少女は呆然自失となっており、ほとんど話はできなかった。


 あまりに小さくてか弱く、儚く見えた事を覚えている。そんな少女が、リ・アクトの裁人になれるほどの怒りと憎しみを…。


「『委員会』も愚かだな…。俺達がこんな陽動に引っ掛かると本気で思っていたのか?」


 轟木が構えていた拳銃をわずかに下ろすのを見計らうかのように、ユウヤが再び口を開いた。


「少々強引な手を使ったが、彼女は預からせてもらっていた。俺達の存在意義は、あくまでリ・アクトの阻止だからな」

「まさか…奴もか!?飯塚仁(いいづかひとし)はどうした!?」

「もうこの日本大国にはいないだろう。いつも通りの事だ」


 不適に笑うユウヤ。轟木の身体が悔しさで震えた。

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