第37話

だが、予想に反して、ユウヤの足はピタリと止まり、そのまま動かなくなった。


 「ん?」といぶかしんだ轟木が視線の焦点をユウヤの足からゆっくり持ち上げてみると、ユウヤは目を伏せ、仕方ないといったふうに長い息を吐き出している。


「できれば」


 ユウヤが言った。


「こんなやり方はしたくなかったがな」

「何…?」


 ユウヤは左手を軽く掲げ、パチンと指を鳴らした。


 それを見たリュウジが「…んだよ、結局やるんじゃねえかよ」とぶつぶつ言いながら、操縦席の隣に寝かせていたある人物を片手で起こした。


 そして、その人物の顔がよく見えるようにドアの窓に近付けてやる。轟木の顔色が一瞬で変わった。


 その人物とは、目隠しに猿ぐつわをかまされ、上半身を縄で縛られているセーラー服姿の女子高生だった。


 だが、轟木には彼女がどこの誰なのかすぐに分かった。轟木が刑事課で最後に担当した殺人事件の被害者遺族だったからだ。


「瞳…ちゃん…?」


 思わず名前を呼ぶ。それに気付いたユウヤが「そうだ」と軽く頷いてみせた。

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