第19話

轟木が国家危機対策安全課に転属したのは、つい一ヶ月前の事だ。


 彼の仕事ぶりを称えた上役――轟木に言わせれば「お偉いさん方」が、是非にと手を差し伸ばしてきたのだ。


 轟木は、どこに異動になろうが知った事ではなかった。


 世間を騒がす“悪党”を捕まえ、目の前の人々の平穏を守る。それさえできれば、場所はどこだっていい。だからこそ、二つ返事で転属を了承したのだ。


 だが、一つだけ不満があった。轟木は、その不満を生み出している隣の男をちらりと盗み見た。


 轟木と同じ時期に国家危機対策安全課に配属となった隣の男は、名を須藤大和(すどうやまと)といった。


 年はちょうど轟木の半分で、二十四。大学を出てから警察学校に入学し、そこを卒業後しばらくは所轄の署に勤務していたが、異例の早さで昇進試験をパスした。


 そして、よほどやる気があったのか知れないが、警視庁に国家危機対策安全課ができると聞くや否や、自ら転属を希望したという。


 須藤は先ほどから無言のまま、六つ並ぶように設置されている中継モニターをじっと見つめていた。


 モニターは大通りの行進の様子をあらゆる角度から映している。轟木は、そろそろ始まるであろう須藤の一言目に、わずかに身構えた。

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