行進

第15話

晴れ渡る青空に短い花火が何発も放たれたが、美しい火花は開かず、パンパンと空気を鳴らす音と煙が広がっただけだった。


 だが、その花火を合図に、通行止めとなった街の大通りは集まった群衆の興奮の声で一気に震えた。


 大通りの中心には、軍服に身を包んだ何列もの鼓笛隊が微動だにせず待ち構えている。


 その中にいたパーカッション担当の一人が、やたら緊張した面持ちで立っていた。


 秋も深まり、これから本格的な寒さが訪れようとしているのに、彼の頬に汗が一筋流れる。集まった人々から寄せられる熱気と、自分が緊張しているせいだとすぐに分かった。


 自らを落ち着かせる為、彼は深呼吸を一つした。そして、これから行われる“儀式”を迎える為、バチを降り下ろしダラララッと小太鼓を鳴らす。


 すると同時に、鼓笛隊の全員が足踏みと演奏を始めた。


 曲目は、ベートーベン作曲の交響曲第九番『歓喜の歌』。それをマーチング風にアレンジしたものが大通りに響き出す。


 まだこの国が「日本」であった頃、年末などに特番でオーケストラと共によく合唱され、人々を魅了していた。


 だが、日本大国となった今現在では、この曲が演奏される時と演奏者、そして場所は定められていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る