第8話



 ――十五年後。どしゃ降りの雨の日だった。


 様々な警報装置や警備の重厚により脱走不可能と囁かれ、地元の人間から「アルカトラズ」という異名を付けられていたある刑務所から、一人の若い男が脱走した。


 投獄されてから五年。慎重にルートを決め、誰にも悟られる事なく決行した。


 できるだけアスファルトの固い道を伝って足跡を付けないようにしたし、どしゃ降りの雨が警備の犬の鼻を役立たずにするはずだ。


 そうやって、やっと辿り着いたのは刑務所をぐるりと取り囲む高い壁の西側だった。


 ロープでもない限り、決して登る事も下りる事もできないほどの高い壁だ。


 確か打ち合わせでは、何も持たず、身体一つでここまで来ればいいという事だったが…。


 時間を間違えたのか?一瞬、男が焦りと不安を感じた時、足元で何かガンガンと叩き付けているような音がした。


 何の音だ…?


 男は下を見て、そして驚いた。


 分厚い壁の一部にヒビが入っていると思う間もなく、いきなり大人一人がようやく抜け出せるほどの風穴が開いたのだ。


 外からの空気が男のズボンの裾をひらりと撫でる。「マジかよ…」と男が呟くと、風穴の向こうから声が聞こえてきた。

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