第104話
二学期が始まる九月一日の朝になっても、俺は自分の意思で部屋から出る事をためらっていた。
学校に行けば、嫌でも智之と顔を合わせる事になるだろう。そう思うと、自分の身体に全く力が入らない。そんなふうに、いつまでもぐずぐずと布団の中に潜っていると、ふいに部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「隆一」
情けないくらいに、びくりと身体が跳ねたよ。ずっと部屋に閉じこもっている俺に心底呆れていたのか、もしくはあまりに腹が立って仕方なかったのか、それまで珍しく俺をほっといていたおじいさんがしばらくぶりに声をかけてきたんだから。
俺は返事もせずに、布団に潜ったままだった。それを察したのか、おじいさんは部屋には入ってこずにドア越しに言葉を続けてきた。
「何があったか知らんが…そのままでいて、お前の中で燻っているものは解決するのか?」
「……」
「お前も男なら、まずはそこから起き上がれ。そして、受け入れて前を見ろ。それでも足りない時は、その時一緒に考えてやるから…」
初めて聞いた、おじいさんの父親らしい優しい言葉だった。
ドアの側から遠ざかっていくおじいさんの足音に反比例して、俺は心の中から溢れてくる何かを抑える事ができなかった。俺は勢いよく起き上がって、壁に掛けっ放しだった制服を手に取った。
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