第105話
俺が登校した頃には、始業式はとっくに終わっていたようで、体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下をたくさんの生徒達が歩いているのが見えた。
ぞろぞろとアリの行列のように歩き続ける皆の中に、智之の姿を捜した。絶対無傷なはずがない。必ずどこか負傷しているだろう。理不尽な暴力を振るってしまった事を、心の底から謝りたかった。
だが、どの列を見ても智之を見つける事ができず、焦れた俺は昇降口を突っ切り、教室に向かった。早く、早く智之に会いたいと願いながら。
ホームルームを告げるチャイムの音と共に、俺は教室に飛び込んだ。
きちんと着席しているクラスの連中の視線が一気に俺に向けられる。すでに担任も教壇の前に立っていて、「何だ清水、今頃登校か?」と呆れた声を出してきた。
それに構わず、俺は智之の席に目を向けた。一学期まで、そこに智之はいた。屈託のない優しい笑顔を俺に向けてくれていた、たった一人の友達がそこに。でも、智之はその席にいなかった。
「と、智之は…?」
蚊の鳴くような、あまりにもか細い俺の声は、それでも担任の耳に届いたようで、彼は「今から話すところだ」と前置きしてから、淡々と告げた。
「真鍋智之君の事だが、八月いっぱいで転校する事になった。事故に遭ってしまってな、もうこの学校に通えなくなったというのが理由だ」
浩介。この瞬間ほど、俺は絶望というものを味わった事はなかったよ。
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