第103話

「親父…」

「どこに行っていた?」

「……」

「隆一?おい、どうした?」


 俺は、おじいさんの問いかけに答える事ができなかった。急に目の前が真っ暗になって、頭の中がぐらぐらしてきたからだ。もう、立っている事もできないくらいだった。


 俺はその場で膝を付き、うずくまったまま動けなくなった。そして、徐々に気が遠くなっていって…ただ、「隆一!?おい、隆一!」と焦るように俺を呼ぶおじいさんの叫び声がうるさいなあと思っていた。




 それから夏休みの間中、俺はずっと自室に閉じこもっていた。


 身体が起き上がる事を拒絶していた。日によっては高熱を出す事もあれば、あまりの気持ち悪さに一日吐き続けるなんて事もあった。丸一日、何も食べない日なんてのもあったな。


 おばあさんはとても心配してくれて、何かひどい病気かもしれないから一刻も早く病院に行こうと何度も言ってくれたが、俺は頑としてそれを拒み、部屋から出ようとしなかった。


 「これ」が病気ではない事くらい、自分が一番よく分かっている。そして、原因が何なのかも。


 閉じこもっている間、ずっと智之とコスモスの事が気がかりだった。


 あれから、何の音沙汰もない。智之は一体どうしているだろうか…いや、どうなってしまっただろうか。


 それに、智之と二人で一生懸命育ててきたキバナコスモス。あれから一度も俺は世話をしに行っていない。あんな所、俺達以外の誰が足を向けるだろうか。


 あの日から何度か雨は降っていたが、きちんと育っているだろうか。枯れてやしないだろうか…。


 そんな事を何度も何度も思っているうちにどんどん日々は過ぎていって、とうとう二学期が始まってしまった。

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