第99話
「清水君。今日はありがとう」
「え?」
「こんなに楽しい夜は、生まれて初めてだよ」
そう言ってから、智之はいつもの屈託のないニコニコ顔で俺を見た。
訳が分からなかった。
だって、何も特別な事はしていない。智之と父親との三人で、冷やしそうめんを一緒に食べただけだ。そして、マンガやゲームやテレビもおざなりにして、ぼんやりと過ごしているだけだ。
だが、智之は俺とそんな時間を過ごせる事が何よりも嬉しいと言ってから、さらに言葉を続けた。
「今まではずっと一人であれこれとこなしてきたから、それが楽しいとか感じた事なかったんだよ」
「そうだろうな、器用貧乏な奴」
「アハハ、それ言われると痛いなぁ」
「そんな事も、あの親父さんに話してきたのか?」
「えっ…うん、まあ」
俺が何となく聞いたその質問に、智之はちょっと戸惑いの表情を見せたものの、すぐに首を縦に振って肯定した。
「だからって、寂しいとか言った事はないよ。心配させたくなかったし、実際そんなふうにも思った事ないし」
「ふうん」
「あ、でも」
「でも…何だよ?」
「今は寂しくなる条件ができちゃってる。それを失うのはとても寂しいかもね」
そう言って、智之は俺をじっと見た。俺は逆にそれが耐えきれなくて目を逸らすと「もう寝ようぜ」なんて言っていた。
智之の素直さが、俺にはとても痛くて眩しかった…。
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