第98話
だからなんだ、浩介。
お前が俺の背中を羨望の眼差しで見てくる事が何より苦しかったのは、俺が罪を犯したからというだけじゃない。あの日、この親子の生き方を目の当たりにしていた事もあるからだ。
俺にはどう頑張っても、あんな優しい関係は作れない。おじいさんとは作れなかった。お前とも作ってやる事ができなかった。本当に、情けなく思うよ。時間を巻き戻す事が出来るのならば、もう一度全部やり直したいくらいだ。
そしてあの時、小さな火種が少し大きくなるのを俺は感じていた。
どうして、俺にないものを智之は持っているんだろう。
どうして智之が持っているものを、俺には与えられないのだろう。
何故だ?ものすごく、不公平に思える…と。
そんな思いも、智之が満面の笑みを浮かべながら帰って来たのを見たら、また小さなものに治まってしまったんだが…。
その日の夜。確か午後九時くらいだったと覚えている。
父親は夜勤だと言うので、大量に作ってくれた冷やしそうめんの三分の一ほど平らげて、八時には出かけていった。後から知ったんだが、父親はある企業が所有しているビルの警備主任をしていたらしく、智之が夜に一人でいる事は頻繁にあったそうだ。
マンガを読む事もゲームをする事にも飽きてきた上に、テレビもロクな番組を映していなかった。そんな時に、ふいに智之が言った。
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