第93話
「智之、その子がいつも話してくれてる清水君か?」
智之の父親は、俺に視線を向けながらそう言ってきた。その手には洗ったばかりと思われる半袖のシャツを持っている。息子と同じく、屈託のない笑顔だった。
「うん。今日泊まってもらうから」
「本当か?そりゃ、急いで歓迎会しなくちゃな。清水君、狭い所だけどゆっくりしてってくれ」
そう言うや否や、父親はまたふいっと窓の方へと行ってしまったので、俺は返事をする間もなかった。代わりにそちらの方に軽く頭を下げると、急に智之に背中を押された。
「ようこそ我が家へ、清水君。まずは狭い狭いバスルームにごあんな~い♪」
智之の声がやたらはしゃいでるふうに聞こえた。
智之の言う通り、本当に狭い風呂場だったよ。
風呂桶なんか両足を抱えて体育座りじゃなきゃ肩まで浸かれないほどの狭さだ。浩介、お前だったら絶対足も浸けないでシャワーで済ませちまうだろうな。お前、広い風呂じゃなきゃ嫌だって、昔さんざん我がまま言ってたし。
とにかく、でかい身体の俺が心底窮屈だと言わんばかりの顔をしたまま体育座りをしていたのを、気配で知ったのだろう。曇りガラスがはめ込まれた引き戸の向こうで智之が話しかけてきたんだ。
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