第90話
俺は無言のまま、おじいさんを睨み付けていた。こっちには話なんかないという意思を、しっかりと込めてな。
それは確かにおじいさんに伝わったようで、途端に彼の眉間に大きくシワが寄った。おじいさんが本気で怒り出す時に見えるものだと分かっていたから、俺は再び部屋に向かおうとした。
「来いと言っているのが分からんのか!?」
その途端、おじいさんが俺の右の手首を力強く掴み、思い切り引いた。あまりの痛みに声が詰まった。顔をしかめ、歯を食いしばっているのに、おじいさんは決して力を緩めようとしない。俺は踏ん張りながら、ついに声を出していた。
「何すんだよ親父、離せ!」
「話がある」
「俺にはない!離せよ、友達を待たせてんだ!」
「ふざけるな!どうせロクでもない奴だろう。だから毎日そんな汚れた姿で帰ってくるし、まともな成績も取れなかったんだ!俺の言う事を聞いていれば良かったものの…情けない奴め!」
あまりにも決め付けた言葉の数々に、俺の心は真っ赤な怒りではち切れそうになった。
おじいさんが味わってきた屈辱や苦労は分かるし、同情もできる。俺に自分と似たような経験や思いはしてほしくないという親心も、今なら充分理解できる。
でも、この時の俺は、自分を認めてくれた智之を心底バカにされたような気がして、それがどうしても許せなかった。
気が付くと、俺は全身の力を腕に込めて、おじいさんを突き飛ばしていた。
不意を突かれたおじいさんは、あっけないほどに身体のバランスを崩して腰から落ちた。信じられないものを見る目で、俺を見上げてたよ。
俺はそんな親父に何も言わず、さっさと背中を向けて玄関の外に走り出した。自転車にも乗らず、荷物も何も持たず、一直線に智之の元に向かった。
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