第88話
芽が出た事で、俺と智之のやる気は以前より大きく膨らんだ。それは芽の数が増える事でどんどん正比例していき、俺達は子供みたいにはしゃいでは、より懸命にキバナコスモスを育てた。
花壇の土の半分くらいが、十センチほどに伸びた芽でいっぱいになった日の事だった。突然、智之が言ったんだ。
「清水君。今日、うちに泊まりに来ない?」
唐突だったが、あまりにも自然にさらりとそう言ってきたので、俺はすぐに返答できなかった。
多分、この時の俺はぽかんとした間抜け面をしていたんだろうな。智之はすぐにぷっと笑いだした。
「やだなあ、どうしてそんな顔するの」
「いや、だってよ…」
初めての事だったんだ。誰かにうちに来ないかと誘われたのは。
先にも書いたが、当時の俺は捻くれていて、何事にも苛立ちやすかったから、当然言動も荒い。だから、誰かが何かに誘ってくれるなんて事は皆無で、智之と一緒に行動する事は何もかもが初めて尽くしだった訳で。
でも、まさかうちに泊まっていいなんて言われるとは思ってもいなくて、戸惑いもあったがやはりとても嬉しくて、照れ臭くて。
「…いいのか?行っても」
少し経ってそう聞き返せば、智之は「うん!」と大きく頷いてくれた。
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