第84話
一学期の終業式の日に、智之はキバナコスモスの種を両手いっぱいに持ってきた。
「ゴマみてえだな」
想像していたものとはだいぶ違っていたから皮肉な言い方しかできない俺に、智之はさもおかしそうに笑ったよ。
「そう見えるだろうけど、本当に強いんだってば。多分、十月の終わりくらいに咲くと思うよ」
「本当かよ」
「うん。夏休み、毎日ていねいに世話してやればね」
ついでに観察日記も作ろう。夏休みの宿題に課題が自由の研究レポートがあったから、連名にして二人で作ればいいじゃないか。
とてもいい事を思い付いたと言いたげにそう提案してきた智之に、俺はちょっと呆れたな。小学生じゃあるまいし、とも思った。でも、意気揚々と種を花壇に蒔くあいつは、心底楽しそうだった。
夏休み初日から俺は花壇に通い始めた。
大体午前十時くらいに学校の校門前で待ち合わせて、二人肩を並べて花壇に向かう。
初心者用の参考書片手にうんうん唸りながら肥料の量を調節したり、水をやったり、その水はけの具合を確かめたり…。
コスモスなんて、川の土手に適当に咲いてるものだとばかり思ってたが、人の手で育てようとすると考えていた以上に手間暇かかるんだ。ましてや素人の、高校生男子二人だけでやるんだ。必死に頑張ったな。
思えば、あの頃が俺の人生の中で一番真剣に生きていた時期かもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます