第80話

「おい、何勝手な事言ってやがる!?誰がやるっつったよ!」

「いいじゃん、暇なら手伝って」


 智之がシャベルの柄を握り、花壇の土を掘り返し始める。一方の俺は、シャベルを思い切り地面に突き刺し、その刃の部分に片足を掛けてやったまま、微塵も動いてやらなかった。智之に対して、また苛立ちを募らせていったんだ。


 その苛立ちが沸点に到達するまで、そう時間はかからなかった。黙々と、懸命に土を均していく智之の背中に向かって、俺は言ってやった。


「お前もな、いい加減気付けってんだよ!」

「何を~?」


 間延びした返事だった。余計、ムッとしたよ。


「お前、クラス中からパシリ扱いされてんのに気付いてねえのかよ!?クラスの奴らどころか、先公にまでいいように使われやがって」

「……」

「本当はここだって、手入れする必要ねえんだろうが。何でお前がそこまでしてやってやらなきゃいけねえんだよ。ほっときゃいいじゃねえか!」

「ほっとけないよ」


 そう言って、智之は俺を振り返った。それと同時に土で汚れた手で頬を拭うものだから、そこもまた土の色に染まった。


 智之は幾筋も汗が伝う顔でニコッと笑ってから、言葉を続けた。


「だって、僕がやりたいんだから。それで、ここに一面のコスモスが咲いたらすごいと思わない?きっと感動するよ」


 この時は呆れて言葉も出なかったが、何故か智之を置いて帰る気にはなれなかった。


 そして日没を迎える頃には、俺も智之と一緒に花壇の古い土と雑草を掘り返していて、身体中をすっかり汚してしまっていた。それなのに、全く悪い気はしなかった。

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