第78話

その日の放課後の事だった。俺はさっさと教室を出て、昇降口に向かっていた。


 夕飯時まで、今日はどこで時間を潰そうか。本屋で立ち読みでもするか、ゲーセンで遊んでいくか…。


 そんな事を思いながら、昇降口の下駄箱の中にある自分の靴に手を掛けた時、またあいつの声に呼ばれたんだ。


「清水君!」


 今考えれば、この時が最後の分岐点だったんじゃないかと思う。


 もしこの時、俺が振り返らず無視して学校を出ていれば…、浩介、きっとお前はあんな事をせずに済んだだろう。辛い思いをせずに、普通の人生を送る事ができたはずだ。本当に申し訳ないと思っている。


 あの時、今のような未来が来ると分かっていれば、俺はきっと振り返らなかった。だが、俺は反射的に振り返ってしまった。


 そこには、土に汚れたYシャツとズボンから上下ジャージに着替えている智之が、満面の笑みで立っていた。その右腕には大きなシャベルやら革袋やらを携え、少しふんぞり返っているような体勢で俺を見ている。


 ほんの一瞬、ポカンとしてしまった俺に、智之はやたらはりきった声を出して言った。


「今日こそは暇だよね!一緒に花壇作りしよう!!」


 その次の智之の行動は素早かった。空いている左手で俺の腕をしっかり捕まえると、そのままズルズルと俺を校舎の西側まで引っ張っていった。

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