第61話



 おそらく屋上まで運ばれて、そこから投げ落とされたと思われる僕の机と椅子は、すぐに新しい物と交換された。


 その時、僕は担任に連れられて例の空き教室に入った。そこにある数々の机と椅子から好きな物を持っていって構わないという担任の声に重なって、昨日の真鍋とのやり取りを思い出す。胸の辺りがムカムカとしたが、唇をギュッと引き結んで怒りを押し流す事に決めた。


 あれは間違いなく真鍋の仕業だ。


 わざわざ朝早くに登校し、僕の机と椅子を盗み出して屋上から投げ捨てるなんて、何て浅はかで愚かな行動を取る奴なんだろう。まさに、低レベルな人間がやりそうな事だ。


 そんな奴の為に、どうして僕がいちいち反応して怒らなければならないんだ。


 放っておこう。無視しよう。相手にしないでおこう。


 僕が徹底的に無視していれば、そのうち真鍋も僕と関わる必要性が全くない事に気付いて、一切の関わりを断つ事だろう。よほどのバカでない限り、こんな簡単な事はすぐに分かるはずだ。


 だが、とても残念な事に、真鍋はそのよほどのバカという分類に属する人間だった。


 机と椅子を持って僕がクラスに戻ってきた時、真鍋がこちらに視線を向けて、ニタニタと笑っていたから――。

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