第60話
狩野が言った。
「優しいんだね、君は」
「え…」
「見方によっては意地っ張りで、人を見下しがちで、プライドを捨てられなかったと思われるかもしれないけど、俺はそうは思わない。君は本当は優しいんだ。だから家族に言わなかった。それが余計に辛かったし、真鍋君を憎んでしまったと思う」
「憎い?」
「うん、憎んでしまったんだと思うよ」
狩野の言葉に、僕は静かに真鍋に対する己の気持ちを分析してみた。
とても相容れないだろうという第一印象が、あっという間に大嫌いになった。関わり合いたくないと思えば思うほど、奴は僕に近付いてきた。そして、とうとう「攻撃」が始まった。
その「攻撃」が徐々に受け流せなくなってきて、耐えるようになった。でも、それもあっという間に無理矢理植え付けられるような形になってしまって…。
「違う!!」
僕は頭の片隅に浮かびそうになった考えを振り払うように、目の前の簡素な造りの机の表面に両手のこぶしを叩き付けながら立ち上がった。それと同時に、これもまた簡素な造りのパイプ椅子がひっくり返って床に転がる。
狩野は僕の怒鳴り声に相当驚いたようで、目を大きく見開いて僕を見ていた。取調室のドアの向こうが騒がしい。僕の声に、外にいる他の刑事達も驚いたに違いない。
構うものか。僕はそのままの調子で大声を張り続けた。
「絶対に違う!あれは正当防衛だ!ああしなければ、僕は今頃どうなってたか分からない…悪いのはあいつだ、真鍋なんだ!!」
思い出すのさえ嫌で嫌で仕方なかったが、僕は再び話し出した。あの日に至るまでの、僕と真鍋の事を――。
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