第59話

「言ったら、余計な心配をさせてしまうでしょう?」

「え…」

「真鍋みたいな奴の為に、家族を…特に父さんを頼って巻き込みたくなかったんですよ。自分一人で何とかしようと思ってたんです。あの日まで、ずっと」


 そう。僕はあの日が来るまで、何とかならないかとずっと模索していた。


 最初の、机と椅子が壊される程度の「攻撃」なら、低レベルな人間の少々度が過ぎるやんちゃな悪戯だと、さらりと流す事もできた。実際、僕は真鍋に対して何の反応も見せなかったし、徹底的に無視を決め込んだ。


 きっと、真鍋はそんな冷静な僕がますます気に入らなくなったんだろう。だから、低レベルな人間に相応しい愚かな行為を僕に仕向け続けていたんだ。


 そうだ、よく考えろ。こんな事態にまで発展してしまったのは、やはり真鍋のせいだ。僕が反応を見せなかった時点でさっさと諦めてしまえばよかったのに、そうしなかった真鍋の愚かさが招いた結果だ。あいつの、自業自得じゃないか。


 僕は、真鍋のそれに巻き込まれてしまった、いわば被害者だ。こんな冷たくて殺風景で狭苦しい取調室で加害者扱いを受ける謂われはない。


 何度でも正当防衛を主張してやる。そう思ってふと顔を上げると、狩野の僕を見る目が変わっていた。真摯だったものから、また優しげなものへと。

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