第57話



「…すぐに分かりましたよ。あれは間違いなく、真鍋の仕業だって事に」

「でも君は、そう確信していながら誰にもその考えを話さなかった…だったよね?」


 僕がここまで話すと、狩野は調書の上を走らせていたボールペンを一度止め、僕の顔をじっと見つめながらそう言ってきた。僕はこくりと頷いた。


 すると狩野は、首を軽く傾げながら「どうして?」とやたら優しげな口調で再び問いかけてきた。


「考えた事はなかったか?もし、その机と椅子を壊された事件の時…いや、最初に図書室で盗みに誘われた時に真鍋君との事を誰かに話していれば、今、君はこんな所にいるはずがなかった、とか」

「そうかもしれませんが」


 狩野の言葉は、誰にでも思い付けそうな陳腐で稚拙なものだった。だから僕は、そんな事しか言えないこの低レベルな刑事に、力強く言ってやった。


「だからといって、僕の行為が犯罪となるんですか?僕は何も悪くないと言っているでしょう、正当防衛なんです」

「清水君…」

「大体、どうしてあの時点で僕が真鍋との事を人に話さなくちゃいけないんですか。あんな低レベルな奴と関わってたなんて、恥晒しな事を」

「そんなふうに言っちゃいけないよ」


 ふいに、狩野が真剣な表情を作って僕の言葉を遮った。その事に、少なからずムッとする。


 何だよ、まだ僕が話している途中なのに。これだから低能な奴は困るんだ。


 そう思っていると、狩野は持っていたボールペンを調書の脇へと静かに置き、両手を顎の下で組んで僕をじっと見つめながら口を開いた。

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