第56話
学校に着いて、昇降口で素早く上履きに履き替えると、そのままの勢いで教室までの廊下を走り抜けた。
教室のドアの前に立つまでがあっという間で、ぜいぜいと息が大きく上がっている。額が汗でびっしょりだった。
僕は何度か深呼吸をして、高ぶった感情や息遣いを抑えようと試みた。
すう、はあ。すう、はあ。
たっぷり五分はかかったと思うが、それでも何とか呼吸が落ち着いていて、先ほどまで熱かった頬の辺りもマシになったような気がした。
早く教室に入って、気分を入れ替えよう。
そう思いながら、教室のドアに手をかけた時だった。
…ドカァッ!!
突然、何かがひしゃげるようなすさまじい音がドアの向こうから聞こえてきて、僕の身体は一瞬怯んだ。それでも何事かと思いながらドアを開けると、クラスの皆が窓枠という窓枠に一斉に集まっていて、外の様子を窺っているようだった。
いったい、皆は何を見ているんだろう。僕も机にカバンを置いてから窓枠に近付こうとしたが、おかしな事に窓際から二列目にあるはずの僕の机と椅子が見当たらなかった。
「あれ…?」
反射的に周囲を見回し、自分がどこか間違っているのではないかと考えるが、どれもこれも他はクラスの皆の机と椅子で、僕の分だけがない。椅子は他の物と大差ないが、机の方は表面がやたら焦げたような茶色で古い傷が少々目立つ。おまけに横のフックに僕の体操着入れを掛けっ放しでいたから、誰かの物と間違うはずがないのに――。
その時だった。奴の声が、僕の背後から聞こえてきたのは。
「よう、清水。下にあるの、お前の机と椅子じゃね?」
肩越しに振り返ると、いつものニヤニヤ顔を浮かべて真鍋が偉そうに立っている。奴の右手は外を見てみろと言わんばかりに、教室の窓を指差していた。
僕は皆の波を掻き分け、窓枠からほんの少しだけ身を乗り出して、下を見た。
窓枠の下は、教員用の駐車場になっている。まだどの車も停まっていないコンクリートの上で、バラバラになってひしゃげた一組の机と椅子が見えた。それらと同じ場所で、僕の体操着入れも転がっていた。
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