第54話



 翌日も、いつもと何も変わらない朝がやってきた。一面の青空にぽつぽつと大小様々なヒツジ雲が浮かんでいて、春らしい陽気が玄関を出た僕を包み込んでいた。


 この日は、一限目から授業が入っているという姉と一緒に家を出た。通学路の途中にある最寄駅から四駅分ほど先に彼女の通う大学があるので、一緒に出る時はそこまで肩を並べて歩く。


 知っている誰かに見られたら少々気恥ずかしいが、時間にすれば十分程度だ。見つかる可能性は若干低いと思っていた。


「浩介、最近どう?」


 何の脈絡もなく、突然話題を振ってくるのは姉の昔からの悪癖だ。適当に「はいはい」と相槌を打ってそのまま流してしまう選択肢もあるにはあるが、そうするとさらに面倒臭い事態に陥るなんて事は一度や二度じゃなかった。


 姉の悪癖に耐性と慣れをつけていた僕は、ここは素直に答えておくかという結論に達して、口を開いた。


「別に。楽しくやってるよ。今度、実力テストがあるみたいだけど、全然余裕だし」

「ふうん」


 自分から聞いてきたくせに、姉はあまり興味がないふうに言葉と息を漏らす。


 何だよ、これはお望みの言葉じゃなかったのか…。


 じゃあ、何を付け加えてやろうかと僕が少し考えていると、再び姉が声をかけてきた。

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