第53話

「先公達が話してるの聞きかじったんだが、お前、医大に現役合格が目標なんだって?」


 真鍋が言った。


「今からご苦労さんなこったな。だったら、なおさら成績はトップでありたいよな。こんな半端な偏差値の学校でもよ」

「なっ…!」

「お前にいい事教えてやるよ。実力テストの問題用紙、職員室の奥にある金庫にもう入ってるんだ。俺と組んで、それを盗み…うわっ!?」


 真鍋が最後まで言葉を紡ぐ事はなかった。奴が言い切る前に、僕がその大きな身体を不意打ちよろしく、思い切り突き飛ばしたからだ。


 僕はこれまで、他人に暴力をふるった事はない。でも、この時ばかりは、かあっと頭に血が昇った。僕は好きで第一志望の高校に行かなかった訳じゃない。好きでこんな低レベルの学校に入ったんじゃない。好きでお前みたいな奴と出会った訳じゃない!


 油断していた真鍋は僕の突然の暴力に完全に身体のバランスを崩して、その場にドスンと尻もちをついた。その姿は本当に滑稽で…僕を見上げている顔もまた、ひどく間抜けだった。


 僕はそんな真鍋をキッと見下ろしながら、力いっぱい言ってやった。


「僕を、お前なんかと一緒にするな!」

「何だと…」

「僕は、お前みたいに程度も視野も考えも低レベルな奴とは違うんだ!!」


 そう、僕はこいつとは違う。僕には夢があるんだ。そして、いつか父さんを助けて世の中の役に立つ人間になる。こいつとは見る世界が違うんだ。


 僕は尻もちをついたまま睨み付けてくる真鍋を無視して、今度こそ教室を飛び出した。これでもう真鍋と関わる事は永遠にないと決めながら。


 でも、その翌日からだったんだ。真鍋からの「攻撃」が始まったのは――。

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