第52話
そんな僕を見て、真鍋は背中を預けていた教壇から離れてこちらに近付いてきた。反射的に僕はまた後ずさるが、それもすぐ終わった。
教室の後ろの方の壁に、僕の背中がぶつかる。ロッカーも本棚も置いていない、壁紙すらない丸裸でコンクリートが剥き出しの壁はひんやりと言うより、氷のように冷たい。その冷たさが僕の背中を捕えて、僕から逃げ場所を奪った。
真鍋は僕より数歩離れた所で足を止め、またじっと僕を見つめる。
奴が何を考えているのかは分からないが、絶対にろくな事じゃない。
そもそも、奴とは仲良くなれそうにない。関わるべきじゃないと最初から分かっていた事じゃないか。奴の僕への第一印象がどんなものだろうと、知った事か。僕は再び嫌悪感をあらわにした言葉を吐いた。
「大した話じゃないなら、僕は行くよ。お前と違って、暇じゃないんだ」
「言ってくれるじゃん、いいから聞けよ。お前にも損はないって言っただろ」
「知らないよ」
「まあ聞けって。来週やる実力テスト、問題の中身知りたくねえか?」
「え…」
何とか両足を動かして、教室のドアに向かおうとしていた僕の身体が止まる。肩越しに振り返ると、真鍋は大きな胸板の前で両腕を組んで偉そうに立っていた。
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